休み時間、高3B組のK(♀)がニコニコ笑いながら近づいてきた。

「担任に髪の毛が茶色いって怒られちゃったー」

そして、ブローネヘアマニキュア(黒)とブラシを私に差し出して

「今すぐ黒くしろって担任に渡されたんだけど、センセーにやってもらいたかったから来たのー」

肩までまっすぐ伸びた綺麗な栗色の髪に、無粋な黒をスプレーする虚しさ。
でも、私がそれを口にすることは許されなくて。
だから、彼女の髪を丁寧に梳かしつけている間、
「ルールとTPOをわきまえることの大切さ」を話した。
ことばが空回りしてるな、と思いながら。


御礼を言いながら帰ってゆくKの背中に向かって
「ちゃんと美容院で黒くしていらっしゃいよ」
と声をかけると、Kはドアに手をかけながら、くるりと振り向いて
「だってセンセーにやってもらいたいんだもん」
と悪戯っぽく笑った。

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