いくら可愛くおねだりしたってダメなものはダメです。

週末の学園祭に向けて、明日と明後日はまるまる準備にあてられる。
すべてのクラスで何らかの企画を行うのだが、割り当てられた場所が自分達の教室になることは滅多にない。
移動したその先で行われる展示やアトラクションには、教室備え付けのロッカーや机がもれなく使用される。
だから、普段どおり私物を入れたままにしておくと、ごたごたに紛れて必ずその行方が判らなくなるのだ。
毎年毎年、学園祭明けには必ず
「せんせーロッカーに入れといた○○が無くなったー」
「だから持って帰れって言ったでしょー！！」
という会話が飛び交う。


そんな訳で、今年からちょっと厳しくいくことになった。
9月1日付けで
「9月12日までに教室内の私物はすべて持ち帰ること」
とお触れを出したのである。

「全ての教室が何かの企画に使われるんだから、
　どこかに隠しておこうったって無理です。
　高3生のロッカーに入ってるのは教科書と体操着と靴くらいでしょ。
　教室を使う下級生達に悪戯されたくなかったら、
　おとなしく持って帰んなさい」

それを聞いて、渋々といった感じで殆どの生徒が身辺整理にとりかかっていた。


そして10日間経過。
今朝、最終宣告が行われた。

「本日18時、フロアの最終チェックをします。
　もし私物を見つけた場合、全て廃棄処分します」


しつこく言い続けたせいか、放課後の点検では全ての教室から私物が出てこなかった。
ほっとしながら教員室に戻りかける高3スタッフ。

でも、特にだらしないウチの学年の生徒達が、こんなに素直に言うことを聞くとは思えない。
…こりゃ絶対変だ。
ちょっと考えてから、私は女子トイレに向かった。


そしたら案の定、出るわ出るわ。

コップと歯ブラシ、洗顔フォーム。
ポーチに入った化粧道具。
身なり検査対策の黒のヘアスプレー。
規定外のセーター。
アクセサリー。
体育館履き。
ジャージ一式。
制服のブレザー。
辞書。
教科書。


がっかりしたよ。


そんでもってますます腹立たしいのは、透明のゴミ袋できちんと梱包されたそれらの荷物の上に、ばーんと景気良く張られたメッセージ（しかも採点済みの小テストを使いよる…）。


「捨てないでね（ハートマーク）　高3女子一同」


媚び方がへたくそなので却下。